使役の助動詞「す・さす・しむ」に関する、まとめと問題です。
「す・さす・しむ」の活用表、接続のしかた、使役・尊敬・謙譲の意味、「す」と「さす」の接続の違い、「す・さす」と「しむ」の違い、「す」「せ」の識別(サ変動詞や過去の助動詞との違い)についてもまとめて確認していきます。
使役の助動詞「す・さす・しむ」
使役の助動詞「す・さす・しむ」の活用や意味、各助動詞の違いについても確認します。
「す・さす・しむ」の活用表
助動詞「す・さす・しむ」の活用表です。未然形は「ず/む/ば」、連用形は「き/けり/て」、連体形は体言、已然形は「ども/ば」に続く形です。
基本形 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
す | せ | せ | す | する | すれ | せよ |
さす | させ | させ | さす | さする | さすれ | させよ |
しむ | しめ | しめ | しむ | しむる | しむれ | しめよ |
「す・さす・しむ」の接続
助動詞「す・さす・しむ」はいずれも未然形に接続します。ただし「す」と「さす」はそれぞれ異なる動詞に接続します。
・す … 四段・ナ変・ラ変動詞の未然形に接続
例:持たす[四段動詞「持つ」未然形+「す」]
・さす … 四段・ナ変・ラ変以外の動詞の未然形に接続
例:捨てさす[下二段動詞「捨つ」未然形+「さす」]
・しむ … 活用語の未然形に接続
例:奉らしむ[「奉る」未然形+「しむ」]
「す」と「さす」接続の違い
使役の助動詞「す」 は四段・ナ変・ラ変動詞の未然形、「さす」はそれ以外の上一段、上二段、下一段、下二段、カ変、サ変動詞の未然形に接続するという違いがあります。
つまり未然形が「ア段」になるものは「す」、ならないものは「さす」を使います。
「す・さす・しむ」の意味
助動詞「す・さす・しむ」にはいずれも使役、尊敬、謙譲の意味があります。
・使役「~せる、させる」
例:焼かす(焼かせる)、食べさす(食べさせる)、喜ばしむ(喜ばせる)
・尊敬「お~になる」※「~(さ)せ給ふ、~しめ給ふ」の形が使われる
例:入らせ給ふ(お入りになる)、寄せさせ給ふ(お寄せになる)、つくらしめ給ふ(お作りになる)
・謙譲「~申し上げる、させていただく」※連語扱いが多い、謙譲語「奏す」「啓す」などに続く
例:申さす(申し上げる)、聞こえさす(申し上げる)、奉らしむ(差し上げさせていただく)
「~(さ)せ給ふ、~しめ給ふ」だからといって、必ず「す・さす・しむ」が「尊敬」の意味で使われているとは限りません。「使役+給ふ」の場合もあるので、文脈で判断しましょう。
「す・さす」と「しむ」の違い
「す・さす」と「しむ」の意味に違いはありません。「しむ」は上代(奈良時代ごろ)の時代に使われていました。
「す・さす」が使役の助動詞として使われるようになり、「しむ」は漢文訓読文や和漢混交文を中心に使われるようになりました。
「す」の識別
使役の助動詞「す」はサ変動詞「(~)す」と混同しないように、未然形はサ変、過去の助動詞「き」の未然形との識別にも注意してください。
サ変動詞「す」との識別
・入らす(動詞の未然形に接続 → 助動詞「す」終止形)
・愛す(自立語 → サ変動詞「愛す」終止形)
未然形「せ」使役とサ変・過去の識別
サ変動詞、過去の助動詞「き」の未然形も「せ」になるので注意しましょう。「せ」の前が未然形なら使役、連用形なら過去と考えることができます。
・呼ばせず(動詞の未然形に接続 → 助動詞「す」未然形)
・知りせば(動詞の連用形に接続 → 助動詞「き」未然形)
・入らせ給ふ(動詞の未然形に接続 → 助動詞「す」連用形)
・恋せず(自立語 → サ変動詞「恋す」未然形)
「す・さす・しむ」の例(接続・活用・意味)
「す・さす・しむ」の接続・活用と意味の例をそれぞれ確認してみましょう。
・言ふ+す+ず → 言はせず(未然形)[言わせない]
・捨つ+さす+ず → 捨てさせず(未然形)[捨てさせない]
・かへる+しむ+む→ かへらしめむ(未然形)[帰らせよう]
・かへす+す+給ふ → かへさせ給ふ(連用形)[お返しになる]
・捨つ+さす+給ふ → 捨てさせ給ふ(連用形)[お捨てになる]
・かへる+しむ+給ふ→ かへらしめ給ふ(連用形)[お帰しになる]
・かへる+しむ+む→ かへらしめむ(連用形)[言わせない]
・読む+す [言い切り] → 読ます(終止形)[読ませる]
・食べる+さす [言い切り] → 食べさす(終止形)[食べさせる]
・喜ばす+しむ [言い切り] → 喜ばしむ(終止形)[喜ばせる]
・読む+す+とき → 読まするとき(連体形)[読ませるとき]
・食べる+さす+とき → 食べさするとき(連体形)[食べさせるとき]
・喜ばす+しむ +とき → 喜ばしむるとき(連体形)[喜ばせるとき]
・読む+す+ども → 読ますれども(已然形)[読ませるけれども]
・食べる+さす+ども → 食べさすれども(已然形)[食べさせるけれども]
・喜ばす+しむ +ども → 喜ばしむれども(已然形)[喜ばせるけれども]
・読む+す [命令] → 読ませよ(命令形)[読ませなさい]
・食べる+さす[命令]→ 食べさせよ(命令形)[食べさせなさい]
・喜ばす+しむ[命令] → 喜ばしめよ(命令形)[喜ばせなさい]
【問題編】助動詞「す・さす・しむ」の活用・意味
問1 助動詞「す・さす・しむ」の活用表を完成させましょう。(答えは▼をクリックして見られます)
例語 | 未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 |
す | ||||||
さす | ||||||
しむ |
問2 次の( )内の動詞を[ ]内の意味になるように適切な形にしましょう。
(1) ( 呼ぶ )す[呼ばせる]
解答を見る
呼ば
(2) ( 捨つ )さす[捨てさせる]
解答を見る
捨て
(3) ( 奉る )しむ[献上します]
解答を見る
奉ら
問3 次の( )内の助動詞を[ ]内の意味になるように適切な形にしましょう。
(1) かへら(しむ)給ふ[お帰しになる]
解答を見る
しめ
(2) 食べ(さす)とき[食べさせるとき]
解答を見る
さする
(3) 喜ば(しむ)ども[喜ばせるけれども]
解答を見る
しむれ
(4) かへら(す)給へ[お帰りになってください]
解答を見る
せ
問4 次のア~ウの下線部から使役の助動詞を選びましょう。(答えは▼をクリックして見られます)
ア 恋せず
イ 読ませず
ウ なかりせば
解答を見る
イ
問5 次のア~ウの下線部の助動詞は、使役・尊敬・謙譲のいずれかの意味になります。謙譲の意味で使われていると最も考えられるのはどれですか。(答えは▼をクリックして見られます)
ア かへさせ給ふ
イ 書かしむ
ウ 啓せしむ
解答を見る
ウ
まとめ
・助動詞「す」の活用は「せ、せ、す、する、すれ、せよ」で四段・ナ変・ラ変動詞の未然形に接続
・助動詞「さす」の活用は「させ、させ、さす、さする、さすれ、させよ」で四段・ナ変・ラ変以外の動詞の未然形に接続
・助動詞「しむ」の活用は「しめ、しめ、しむ、しむる、しむれ、しめよ」で活用語の未然形接続
・助動詞「す・さす・しむ」は使役、尊敬、謙譲の意味がある
・尊敬の意味では「~(さ)せ給ふ」「~しめ給ふ」の形が多いが、「(さ)せ」「しめ」が使役の意味で使われていることもある(文脈で判断)
・謙譲の意味では謙譲語(奏す、啓す、など)に続いて用いられる